はじめて息子がご馳走してくれた訳
長男から会食のお誘い
ポン吉の長男はすでに社会人として働いていて、ポン吉たちとは一緒に住んでいない。
その長男から電話があった。
普段は電話ではなくてメールで連絡してくるのに、その日は何故か電話してきた。
休日に家族みんなで食事をしようと誘ってきた。
長男がボーナスをもらったのでポン吉夫婦と妹と弟にご馳走するというのだ。
今までポン吉も奥さんも長男から何かプレゼントをもらったりしたことがなかったので、ポン吉はとてもうれしくてすぐに奥さんに伝えた。
家族でご飯を食べるだけなのに
長男からの会食のお誘いに対して奥さんは、
「何か怪しくない?」
とポン吉に問いかけてきた。
ポン吉が奥さんの真意を理解できかねていると、
「もしかして彼女を紹介するとかだったりして!」
「もしかすると、結婚とか?」
「彼女のお腹には‥‥、」
とかいろいろと妄想のような推測をして喜んでいた。
初対面の会食には不向き
長男が家族そろっての会食の場に選んだのは、ポン吉と奥さんが結婚式を挙げたホテルだった。
そのホテルにあるレストランのディナービュッフェを予約したと長男から連絡があった。
連絡をもらってから会食まで1週間あったので、ポン吉の奥さんはいろんな妄想をして楽しそうだった。
しかし、ポン吉は奥さんの妄想というか、期待は外れていることはわかっていた。
なぜなら、初めて人を紹介する時の会食に、席を頻繁に外すことになるビュッフェスタイルのレストランは不向きで、長男がそういうお店を選ぶはずがないと思っていたから。
実は、ポン吉は長男にはポン吉と奥さんがそれぞれの両親に初めて会った時のことを話したことがある。
その時にポン吉が選んだお店は、場所は違うがどちらものチャイニーズ・レストランだった。
丸テーブルに大皿で配膳される中華料理なら、お互いに初対面で緊張していても料理を取り分けたりして話すきっかけがいろいろあると思ったからだった。
食い意地が張っているので家族だけで正解
長男とはホテルのロビーで待ち合わせをしていた。
奥さんの期待的妄想に反して長男は一人でやってきた。
そのレストランはローストビーフが有名らしく、2種類の牛肉が用意されていた。
それぞれのローストビーフを1枚ずつシェフがカットしてくれるのだが、ポン吉は食い意地が張っているので、
「ダブルで!」
と、まるでウィスキーでも注文するかのように2枚ずつに切ってもらった。
長男の妹と弟も高校生なので、上品に味わうというよりもガッツクという感じだった。
ポン吉の奥さんは長男にあれやこれやと質問していたが、妄想を駆り立てるような話は聞けなかったようだ。
ご馳走の意味
食事もひと段落してデザートでもと考えていると、ポン吉たち家族以外のテーブルもカップルというより家族連れが多いことに気づいた。
少し離れたテーブルのお年を召したおじいさんのところにパチパチときれいな花火が刺さったケーキが運ばれてきた。
ポン吉はすぐに誕生日のお祝いだと気がついた。
おじいさんの周りの家族も「おめでとう」と言っていた。
しかし、娘さんだと思われる女性が、
「それに1日早いけど、父の日だものね」
と言った瞬間、どうして長男がポン吉に電話してきて食事に誘い、ご馳走してくれているのかが、すべてわかった。
ポン吉の長男は照れ屋なので、父の日だからとか照れ臭くて言えなかったのだと思う。
ポン吉は感慨深く窓の外の夜景を見ていたが、奥さんと妹と弟はデザートを片っ端から全部食べつくす勢いで貪っていた。
父の日に初めて長男にご馳走してもらい、ポン吉はお腹より胸がいっぱいになってデザートはあまり食べれなかった。