暗闇フィットネスが流行ってる一方で、見られたいランウェイおじさん
暗闇フィットネス
大音量の音楽が流れ、薄暗いフロアの天井にはミラーボールがあって色とりどりの光線が飛び交っている。
まるで、クラブ(ポン吉の世代だとディスコ)のような空間で運動をする暗闇フィットネスというものが流行っている。
音楽に合わせて会場を盛り上げるDJのようにインストラクターがレッスンを指導する。
暗闇のフィットネススタジオはアーティストのほうを向いて観客が飛び跳ねているライブハウスのようだ。
見えないから良い
暗闇フィットネスの7割は女性客らしい。
インストラクターの指導通りにうまくできなかったり、体形に自信がなかったりで従来のフィットネスクラブに二の足を踏んでいた人たちにとって、暗闇フィットネスは人目を気にせずマイペースで頑張れるというところが支持されている。
そのため暗闇フィットネスには従来のスポーツジムにあるような全身を映す大きな鏡は設置されていない。
まあ、暗闇だから鏡があっても見えないから関係ないだろう。
しかし、従来のスポーツジムに30年ほど通っているポン吉の友人は暗闇フィットネスには全く興味がない。
見せたくてしかたがない
ポン吉の友人は若い頃からトレーニングを続けているので50歳を過ぎても筋骨隆々だ。
ただし身長は高くないので、見た目は「ヤッターマン」というアニメに出てきた「ドロンジョ様」の手下で怪力の持ち主「トンズラー」に似ている。
トンズラー似の彼はスポーツジムに通えない時でもトレーニングは欠かさない。
ポン吉と数名の仲間で温泉に行った時、脱衣場の隅っこで他のお客さんに迷惑にならないように腕立て伏せやスクワットをしていた。
ただ彼は、いやトンズラーは、脱衣場で服を脱いで裸になってからからトレーニングをする。
一通りのメニューをこなしてもなかなか風呂場へは行かない。
脱衣場の中を裸でゆっくりと歩きまわっている。
よく見るとトンズラーは脱衣場の大きな鏡を横目で確認し、自分の裸を見ながら歩いている。
そして納得がいったら、脱衣場の奥から浴室の入り口へと向かっていく。
その姿は、ファッションショーのランウェイを颯爽と歩くモデルさんを彷彿とさせる。
ただし彼はトンズラーであってファッションモデルではない、しかも素っ裸だ。
だから一緒にいるポン吉たちも対応に困る。
トンズラーを一人にすると怪しい人に思われるので、彼の一連のデモンストレーションが完了するまでポン吉たちはトンズラーを見守っている。
ただそれは見ようによっては、ランウェイを闊歩するトンズラーに声援をおくる観客のおじさんたちだ。
そうだとすれば、ポン吉も変なおじさんの仲間入りだ。
トンズラーは風呂場でも湯船につかることはほとんどない。
でも湯船のまわりをゆっくりと歩くのは好きだ。
ポン吉が思うに、トンズラーは常に鍛えた自分の体を人目にさらしておきたいのだろう。
ポン吉たちがひと風呂浴びて脱衣場に向かうとトンズラーもついてくる。
しかし、ポン吉たちが服を着ても、トンズラーはなかなか服を着ようとしない。
入浴前と同じように脱衣場をランウェイにみたてて裸で歩き回るのだ。
一通り他のお客さんの注目を浴びたら満足したのか、
トンズラーは、「あー!いい湯だった!」と言って服を着始める。
でも、お前は湯船に入ってないからな! トンズラー
結局
他人の目を気にしたり自信のなかった体形が、トレーニングによって美しくなっていくと、今度はその成果である自分の体を人に見せたくなるのかもしれない。
だとすれば、トレーニングジムに二の足を踏んでいた初心者が向かう次のステップは暗闇ではない。
「暗闇フィットネス」から「みてみてフィットネス」にステップアップするのだろう。
みてみてフィットネスにはきっとランウェイが設置されているに違いない。
次は、暗闇からランウェイだ!