気功と催眠術を体験
ポン吉は心霊現象や超能力というものに興味はあるが、実際に体験したことや目の当たりにしたことはない。
気功を体験
ただし、気功というものを中国で見せてもらい体験したことがある。
その気功師は中国では有名な先生だと教えられた。
まず、ポン吉の通訳の中国人がその先生に診てもらうと、いくつか体の悪い部分を指摘された。
通訳は指摘された部分は実際に調子が悪いので、先生の診たては当たっていると言っていた。
先生が気を送り続けると、徐々に通訳の両腕が揺れ動き始めた。
それから両脚も動き始め、遂には立っていられなくなりその場に座り込んでしまった。
通訳によると、自分の意思とは関係なく体が動き始めたらしい。
そしてポン吉も先生に診てもらうことになった。
ポン吉もいくつか体の弱っている部分を指摘された。
先生から肝臓や腎臓が弱っていると言われても、自覚症状がないので素直に納得することはできなかった。
そのまま先生はポン吉に気を送り続けたが、ポン吉の体に異変は起きなかった。
通訳によると、先生は少し疲れたのかもしれない、と言っていた。
その先生が本気を出せば遠く離れたところにいる人でも倒すことができるらしい。
通訳は先生に心酔していたが、ポン吉はにわかに信じることはできなかった。
気功には言葉はあまり関係ないと思うのだが、その気功師の話す中国語をポン吉は全く理解できなかったので、うまく先生の術が通じなかったのかもしれない。
催眠術を体験
言葉が完全に通じる日本で、催眠術をかけることができる男にあった。
その男は目の前にいる相手を催眠術にかけて、相手の感情や感覚をコントロールすることができるというのだ。
実際にその男が目の前で催眠術をかけるところを見させてもらった。
椅子に座っている男女数名に催眠術をかけ、催眠から覚めても椅子から立ち上がることができないように術をかけた。
男の合図で眠りから覚めた男女数名は、自分の席に戻ろうとするがお尻が椅子から離れない。
実はこの男女数名の中にポン吉もいた。
他の男女はともかく、ポン吉は催眠状態にはなっていなかった。
ただ言われるままに目をつむっていただけだ。
ずっと催眠術師の言うことを冷静に理解していたし、意識もはっきりしていた。
だから、術にはかかっていないと思っていた。
しかし、
ポン吉はなぜか椅子から立ち上がることができなかった。
これは場の空気を読んで他のみんなに合わせていたからではなく、本当にお尻が椅子にくっついていたからだ。
催眠術師の次の合図でポン吉も他の男女も立ち上がることができた。
ポン吉は眠っていないけれども、術にはかかったということなのか自分でもよくわからない。
催眠術師はポン吉たちが自分の席に戻ると、今までにたった1度だけ自分の最大限の力を発揮してかけた催眠術があると言い出した。
その催眠術は決して解くことができない。
そして催眠術をかけた相手は今一緒に暮らしている最愛の妻だと言うのだ。
妻になる前の彼女に自分のことを好きになるように催眠術をかけたというのだ。
ポン吉は「マジか!」と心の中で叫んだが、他の人たちは催眠術師の冗談だと理解して笑っていた。
催眠術師も笑ってその場を去ったので、そこは笑うタイミングであり、あくまで催眠術師のジョークとして受け止める話だったのだろう。
しかし、ポン吉は催眠術で眠ることはなかったが、自分の意志に反して椅子からは立ち上がれないという経験をしたばかりだったので、笑っていられなかった。
もしその催眠術師が本当に、自分に好意を持たせるように、自分の意のままにできるように女性に術をかけたとすれば恐ろしいことだ。
自分が知らない間に嫌いなものを好きになったりさせられていたら、たまったものじゃない。
もっともあの日、椅子から立ち上がれなかったのは、ポン吉が場の空気を読み過ぎて自己暗示をかけていたせいかもしれない。
今となっては、あの催眠術師の真偽はもうわからない。